Run-to-Waste(RTW)という園芸用語は、鉢底から排水された水を再び循環させずに廃棄する水やり方法で、日本では「かけ流し式」と呼ばれています ; 屋外では、水は土壌をつたい、浸みこんでいくので、理にかなった、あるいは自然な水の与え方ともいえます。この水の流れのもと進化してきた植物にとって、もっとも違和感のない水やりシステムなのです。

RTW の定義は、水が根全体に完全にいきわたるように与え、鉢底から排水されるまで水やりをおこなうことです。例えば畑の作物に水やりをすると、水分は根元から根の先端へと下に伝って根全体にいきわたり、抜けていきます。ポッティング・ミックス培土やプランター栽培など上面から水やりをする限り、原理は同じです。また、小川や河川、海岸線など水の流れがある水域で栽培される植物もまた、同じ水やり原理だといえます。

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Run-To-Waste: a Basic Primer
ラン・トゥ・ウェイスト・システム(RTW)の例。RTW システムとは、培地に流した水が システムの外に排 水されると廃棄され、再利用しない水やり方式です。

Run-To-Wasteとは、水やり方法あるいは灌水 (かんすい) システムのひとつですが、目的は植物に水だけを与えるためではありません。水の流れとともに肥料も植物に届け、根に養分を吸収させると同時に培地に肥料をたくわえさせ、排水といっしょに老廃物を排出するまでの一連のプロセスをこなすためです。

Mass Flow (マス・フロー)

「マス・フロー」とは、土中を流れる水が肥料を溶かし流動するプロセスのことで、土に固形肥料を入れた場合もあてはまります。「マス・フロー」という名前は、水 (灌水) によって肥料成分が移動し、根に供給されたあと処理されるまでのタスクが由来です。培地 (ピートモス、ロックウール、クレイペブルス、空気も含め) に水を流すことで根に養分を送り届け、不要な老廃物をとりこみ、その後システムから排水されて、二度と戻されず廃棄されます。

たとえ肥料を加えていない水を灌水しても、水が純水でないかぎりは培養液と同じく水に含まれる何らかの成分が培地に残ってしまうものです。他方で再循環システムは、排水を廃棄せずに培養液タンクにもどし、くり返し灌水します。

単なる水やりについての説明ではありますが、実際に活用されているのはほぼすべての栽培方法におよびます。

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Run-To-Waste: a Basic Primer
ロックウール培地を使ったスプラウト栽培

“イリゲーション” と “ファーティゲーション” のちがい

“ イリゲーション ” とは植物に水を与える「灌水 (かんすい)」のことであり、ハンド・ウォータリング、自動ドリップ、雨など、さまざまな手段があり、どれを選ぶべきかの答えは、予算と水やり回数次第です。自動ドリップシステムはコストが高くつきますが、天気にまかせてしまうと雨不足で枯れてしまうリスクが大きくなります。

“ファーティゲーション” とは、肥料や養分を含んだ培養液を灌水することです。適量を確実に植物へ
肥料を与えられるうえ、簡単でコストも安くすみます。植物を育てるために不可欠な管理である水やりと施肥を同時におこなうことができます。実践方法: 培養液を断続的に与えるか、常時与えるかの2 通りです。

“断続ファーティゲーション” とは、何度かに一度、水を培養液に変えて灌水する方法です。培養液を流して肥料を吸着させ、ゆっくりと (培地内の水分に) 放出させることが可能な ;つまり活性培地を使います。活性培地とは、肥料成分を吸着したり放出する緩衝 (かんしょう) 能力のある培地のことです。活性培地の特徴は、いったん培地に吸着させた肥料が、植物にすべて吸収されるまでの期間が長いことです。そのため高濃度の培養液を流さないと、次回の培養液の灌水前にすべての肥料が吸収されてしまい、植物が肥料不足になってしまいます。

“継続ファーティゲーション” は、常に培養液を灌水するため、あらゆるシステムと培地で実践できます。断続ファーティゲーションと比べると、培養液の濃度は低くなり、培地内の肥料濃度を最適なレベルに保ち続けられます。肥料不足による生長不良発生の心配がありません。

すべての植物は、Run-to-Waste、または再循環式のどちらかのシステムで育てられています。

植物に水分と養分をダイレクトに与える方法は、この2通り以外には存在しません。世の中には、どちらなのか判断しにくいハイブリッドなシステムもありますが、結局は2種類のシステムのどちらかを応用したものです。ハイブリッドなシステムには、フラッド & ドレイン (Ebb & Flow)、エアロポニックス (Air Based)、アクアポニックス (DWC に分類) なとがあります。Air Basedは、循環ポンプで排水を再循環させるかRTWで排水を廃棄します。Deep Water (湛液水耕) は、ほとんどの場合でシステムの大きさと種類、育てる植物の数に合わせて培養液を再循環させます。フラッド & ドレイン・システムは、肥料と水を含んだ培養液が、上段にある培地の表面まで汲み上がりその後、下段にあるリザーバーに戻され、再び汲み上げられるのをくりかえして、培地に肥料成分を補給しつづけるいわばRun-But-No-Waste (流して捨てない) システムといえます。

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Run-To-Waste: a Basic Primer
ハイドロポニック栽培では、肥料や植物に作用しない不活性な培地に培養液を含ませて植物に肥料を与えます。

Run-To-Wasteによる水やり方法は、栽培と自然界の両方で最も実践されています。植物の栽培方法は主に2種類あり、ひとつめは土やソイルレス・ミックス培土で育てる方法、もうひとつはハイドロポニカリーに育てる方法です。肥料を溶かした培養液を与えて育てさえすれば、ハイドロポニック栽培になるわけではありません。ハイドロポニック栽培の定義は、培養液のみか、クレイ、砂れき、パーライト、砂、ロックウールなどの、培養液や植物に影響を与えない不活性な培地を介して、植物に肥料養分を供給して育てることです。 ハイドロポニック・システムは循環式と、Run-To-Waste (かけ流し式)の2種類に分けられます。しかし、有機培養土や無機培養土に植物を植えた場合、ハイドロポニック栽培とは見なされません。

ハイドロポニック栽培では、植物に作用するものが培養液のみであるのに対して、無機培養土やソイルレス・ミックス培土のような培養液や植物に大きな影響を与える培地は、多くの要素に作用して変化させます。pH値の変化、肥料成分の吸着と放出、保水性、そして植物を支える力などに作用し、生長を左右します。

作用するものは取るに足りない要素から、温度、かん水する回数と時間まで、あらゆる要素に変化を
もたらすため、その変化を予測したり、修復したり、変えようとすることは困難です。

ハイドロポニック栽培の管理ポイント

ハイドロポニック栽培で最高の結果を得るためには、培養液の温度や必須肥料の吸収量などの変化を常にチェックし、調整しつづける必要があります。有機培地など活性がある培地には、pH値と温度の急激な変化を防ぐ作用、通気性と保水性を維持する多孔性、肥料をゆっくりと放出する保肥性などをコントロールする性質があります。

ハイドロポニック栽培と固形培地を使った栽培では、根の伸び方がちがうため根の性質にも大きな違いが現れます。どちらの栽培方法でも、根は主に培地内で生長しますが、不活性培地は根を支えて培養液を供給すること以外、何の影響も与えません。不活性培地に張る根は、水分と肥料を抑制する能力を持つのに対して、赤玉などの無機用土や、有機素材を使ったソイルレス・ミックス培土で栽培された植物の根は、水分と肥料をたくさん吸収する性質があります。

結論として、土壌や培養土など活性培地での従来の栽培と比較すると、ハイドロポニック栽培のほうが収穫物の重量や品質が格段にアップするというエビデンスはない、ということが複数の研究により明らかにされています。ハイドロポニック栽培とは、何らかの理由で従来の栽培が不可能である場合に、育てる人が栽培方法を十分に理解し、栽培システムを管理する時間と設備がそろっている特定の条件下のみで、メリットが生じる栽培方法です。

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Run-To-Waste: a Basic Primer
有機培地で植物を育てる栽培は、ハイドロポニック栽培には分類されません。

どちらの栽培方法でも、肥料が供給されるプロセスは「マス・フロー」です。肥料が「水」に溶けた状態になると、植物はようやく肥料を吸収できます。肥料成分が自然に分解してイオン化するか、保肥されていた肥料が放出されて水に溶けこみ培養液のような状態になって、はじめて植物が吸収できるようになります。

ハイドロポニック・システムでは、すべての必須肥料成分を培養液で与えます。赤玉などの無機用土やピートモス主体のソイルレス・ミックスなどの活性培地の場合は、土中に含まれる水分濃度を一定に保とうとする平衡性 ( へいこうせい ) がはたらくため、肥料成分が吸着されたり放出されて、土壌粒子を流れる水の濃度は常に一定になります。

いずれの栽培方法でも、植物が肥料を吸収できるのは、肥料が溶けこんだ水が、根の表面に触れたときであり、この流れが「マス・フロー」です。

どんな方法で育てたとしても「肥料成分は、水に溶けた状態でなければ吸収されない」という原理は同じです。また、各肥料は元素の単位で、植物が必要とする最適な量を与えなくてはなりません。肥料各元素を最適な形態 (イオン) に維持しておくために、pH管理がとても重要です。

Run-to-Wasteと再循環式: どちらがベストな栽培システムなのでしょう ?

どちらが正解、失敗ということは全くありません。選ぶポイントは使いやすさです。Run-To-Waste (かけ流し式) システムは、手間があまりかかりませんが排水を捨てる仕組みが必要です。

どのようなシステムで育てるとしても、植物は肥料すべての成分比率に合わせて生長します。例えばモリブデンのような微量要素であっても植物の必要量より不足した場合、それに合わせて他の肥料成分の消費量も減少するためモリブデン以外の肥料成分すべてが余ってしまい、消費できない成分が植物体内に蓄積してしまいます。あるいは、最適な量の肥料を与えたとしても、ひとつでも不足した成分があると肥料全体の消費量が減少して、肥料不足になるため、生長が遅くなります。その結果、通常は植物全体に欠乏症が現れますが、プロセスの一部である場合は必ずしもそうとは限りません (光合成の水分解に不可欠な塩素が不足すると、植物全体のエネルギーが低下し、生長が遅くなります)。

有用、不要をとわず、なんらかの肥料成分が残留すると、植物が吸収する肥料の比率が変わってしまうため、生長に悪影響を与えます。この状態を解決するためには、十分に排水するまで培地を洗い流し、余分な成分をとり除くことが重要です。いったん培地から排水された水は、アンバランスな肥料比率を含んでいるので、同じ問題が発生するのを防ぐために、再利用はせずに捨てる必要があります。

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Run-To-Waste: a Basic Primer
かけ流し式システムを利用したイチゴの生産

排水に関する問題

リザーバーに戻った培養液をくり返し使用する再循環システムもまた、排水の肥料比率が崩れてしまうのは同じです。根に培養液を流すと、植物は必要な肥料成分を選択して吸収し、不要な成分や老廃物を培養液に放出しながら、必要に応じて水分も吸収します。そのため培養液中の肥料バランスが崩れ、最適な肥料濃度よりも薄くなったり濃くなったりします。

再循環システムでは、リザーバー内培養液のpH と ECを常にモニタリングする必要があります。植物が元気に生長を続けるためには、最適な肥料バランスを維持しなくてはならないため、数時間おきに培養液をチェックし、メンテナンスしなくてはなりません。さらに根から分泌された老廃物がリザーバーにたまるのを防ぐために、もし EC が下がらなくても定期的に培養液をすべて捨て、新しい培養液と交換する必要があります。老廃物のせいで培養液の EC が高く保たれているだけで、肥料がまだ残っているわけではないのです。

結論として、植物は最適な条件がそろうと、すばやくシャープに生長するはずです。例えば、水生植物は水中で、乾燥帯で生息する植物は乾燥した土壌で進化してきたように、植物が好む環境を再現したシステムで育てるべきです。栽培者の多くは、使いやすさや好みで栽培システムを選んでいますが、本来は育てたい植物にとって最適なシステムを選ぶべきです。理想的な栽培システムとは、植物のニーズと栽培者が与える環境が一致した状態なのです。

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