換気は、栽培環境の設計や機能を考える際に、しばしば「後回し」にされがちです。最良のシステムはあらかじめきちんと設計されてこそ完成しますが、必ずしも高いコストをかける必要はありません。ただし、栽培環境を設計する最初の段階できちんと決めておく必要があります。しかし現実には、換気が蔑ろにされたまま作られた栽培環境がほとんどです。換気は、植物や作物が育つ環境そのものを作り出すだけでなく、植物そのものを制御する役割を担います。今まであまり関心を持たなかった人こそ、再度見直してみる価値が十分にあります。このテーマは大きく2つに分けて考えることができます。まず1つ目は、換気の基本原理、つまり「どこで・なぜ・何を行うのか」という部分です。
次に、換気の方法と実践、つまりそれらをどのように組み合わせ、いつ行うのかという「どのように・いつ」という側面です。換気の目的とは何でしょうか。換気とは空気を動かすことですが、それがどのように役立つのでしょうか。換気システムには大きく分けて2つの基本的なタイプがあり、それぞれ仕組みと役割が違います。1つ目は空気を入れ替える「開放型システム」です。2つ目は空気の入れ替えを行わない「閉鎖型システム」です。循環とは空気を動かすことを指し、これは開放型・密閉型のどちらのシステムにも共通する要素です。一方、空気の交換とは、ある限定された空間内の空気を、その外部からの新しい空気と物理的に入れ替えることを意味します。
循環
循環とは基本的に、熱や湿度などをある場所から別の場所へ移動させるために空気を動かすことを意味します。空気が一定時間動かずに留まっていると、「成層」と呼ばれる分離が起こり、温度や空気の成分に影響を及ぼします。その結果、温度の層状化や、酸素や二酸化炭素といった重要な気体が不足することもあります。
空気の交換
空気交換は循環と似ていますが、完全に同じではありません。空気交換(開放型システム)とは、閉鎖された空間内の空気を、外部から取り込んだ新しい空気と入れ替えることを指します。その過程で空気が動くため、循環も同時に起こります。この空気交換によって、温度、ガス交換、湿度などを最適に調整することができます。
開放型・閉鎖型システム
グロウルームや温室の中であっても、基本原理は同じです。重要なのは、制御された空間の中で植物を育てることです。植物は生長し、発達しつづけるために光と水を必要とします。植物は光を受け、水を吸収し、二酸化炭素と少量の酸素を「呼吸」します。そして、これら4つの要素を使って、光からエネルギーと炭水化物を生成し、そのエネルギーを蓄えます。これらの炭水化物は、植物が生長・発達するための基本的な構成要素となります。炭水化物をエネルギーに変えるには、呼吸と呼ばれる過程で酸素が必要です。呼吸は、植物が必要なときにエネルギーを放出します。空気が動かない状態では、これらのプロセスによって葉と空気の境界層で気体のがアンバランスになり、植物の近くで湿度が上昇し、太陽光やグロウライトから放射される熱によって温度も上昇します。
閉鎖型システムでは、グロウルーム内の空気を循環させることで植物の周囲に溜まりやすい酸素・湿度・熱が、部屋全体にむらなく拡散されます。
これにより温度が緩和され、湿度が均一になり、葉の近くに十分な二酸化炭素と酸素が確保されます。これは、光合成と呼吸という生命活動の根幹に不可欠です。しかし、空気の均一化は、消費されたガスを補充するものではありません。また、余分な熱(BTU=英国熱量単位で測定)や空気中の湿気を除去することもありません。あくまで空気を混ぜることで層状化や局所的な欠乏を防ぐだけです。
一方で、グロウルームや栽培スペースに、カラッとした空気や涼しい空気と入れ替えられる設備を設置すれば、室内の余分な湿気や熱を取り除くことができます。開放型システムは、グロウルーム内の空気を外気と入れ替えて最適な温度と湿度に調節します。常に循環によって空気を動かし、温度や湿度が高くなったときに空気交換をできるようにします。たとえ完全に密閉された部屋で、温度と湿度を常に最適に保っていたとしても、酸素や二酸化炭素といった重要な気体は減ってしまうので、定期的な換気が必須です。理解すべき点は、温度や湿度を上げる必要がある場合でも、その効果は取り入れる空気に基づくものであり、状況に応じて上がったり下がったりするということです。
残念ながら、ある1つの要素を制御しようとすると、他の要素に悪影響を及ぼすことがあります。そのため、バランスと優先順位が重要になります。例えば、生長速度を上げるために二酸化炭素を追加すると、空気を交換すると添加したCO₂が減りやすくなり、時間も費用も無駄になってしまいます。このような環境では、特定の時間帯において、ある要素を他より優先させる「優先順位システム」が必要になる場合があります。
その他の機能:
換気には、循環型・開放型・閉鎖型すべてに共通する、いくつかの補助的な役割があります。これらの役割も、基本的にはこれまでに説明した「空気の循環」や「空気交換」、とくに湿度の調整によって生み出される効果です。具体的には次のとおりです。
- 病害虫防除
- 生長/蒸散のコントロール
- ストレス管理
1. 病害虫防除
湿度と温度、特に湿度を制御することで、さまざまな病害や病原体の発生リスクを低減できる環境を作ることができます。
葉の表面に自由水が膜状に形成されるのを防ぐことで、ウドンコ病や炭疽病などの菌類胞子が葉組織内部へ侵入するのを抑えます。
また、隠れた環境の湿度も制御されます。多くの病原体の胞子は、理想的でない条件下では劣化し、問題を引き起こす可能性が低くなります。ピシウムやフィトフトラのような根腐れを起こす病害菌は、低湿度条件では外部での活動が阻害されます。葉の内部では活動する場合がありますが、外部では制限されます。
湿度は、ダニ類やキノコバエなどの昆虫の生存や繁殖のしやすさにも影響します。また、湿度は植物の生長や発達にとても大きな影響を及ぼします。
2. 生長/蒸散のコントロール
蒸散とは、根から吸収された水分が植物体内を移動し、最終的に葉の気孔から放出される流れをON/OFFするプロセスです。
葉の気孔から水分が蒸発される働きで、根から吸収された水分が養分や生長に必要な要素を含んで上部へ吸い上げられます。
これは、ストローで水を吸い上げるしくみに似ています。蒸散する速度は、気孔付近の空気の湿度によって決まります。空気が乾燥しているほど蒸発は速くなり、気孔での負圧が高まり、水とともに養分がより速く引き上げられます。
湿度が高すぎると、体内で水の移動が遅くなるので必要な水分や養分を十分に吸い上げられなくなります。逆に乾燥しすぎると、水の移動が速すぎて塩類が葉に溜まりすぎたり、水分が不足して葉焼けが起きることがあります。蒸散は植物の生長にとって不可欠なプロセスであり、必要な場所へ水と養分を供給する「生長のスロットル」のような役割を果たします。
3. ストレス管理
ストレスもまた、植物の発達において重要な要素であり、ネガティブな作用だけでなくポジティブな作用もあります。健全な植物を育てるには、適度なストレスが必要です。適度なストレスは茎を強くし、作物をより頑丈に、すばやく生長させる効果があります。たとえば、植物はダイレクトに風圧を受けるような循環型の空気の流れで生長に変化が起こりますと。これがストレスです。適度なストレスを受けると、植物はがっしりと育ち、開花や結実が促進され、果実はより大きく早く熟すといった変化を起こします。また、生き残るために有利となるテルペンなどの代謝産物の生成も促進されます。ストレスが強すぎるのは良くありませんが、少なすぎるのも逆効果です。空気の循環は、植物に適度なストレスを与える要素となります。
気候条件と季節
空気交換によって温度や湿度を制御する開放型換気ではなく、閉鎖型システムの方が適している場合もあります。閉鎖型システムは、CO₂を内部で補充し、空調で温度を制御し、暖房システムで熱を管理する環境で用いられます。多くの栽培環境では、これらのうち1つまたは複数に加えて、加湿・除湿システムが必要になります。
寒冷地では暖房の必要性が高くなり、逆に温暖な地域では冷風機能がより重要になります。除湿は多くの地域で必要とされますが、加湿器は主に寒冷地で暖房を使用する場合や、乾燥した地域で必要になります。閉鎖型の循環システムでは、温度と湿度が上がりやすい一方で酸素や二酸化炭素は不足しやすくなるため、継続的なモニタリングが必須です。
自分に必要なものを見極める
ここからが本題です。どのシステムと機器が必要かを見極めることは、数段落で説明できるものではありません。工学の知識がなければ難しく、計算式も状況に強く依存します。例えば冷却に必要な空気流量を求める式
qc = Hc / (p cp (to – tr))
は、専門家には意味を持ちますが、多くのグロワーにとっては実用的ではありません。
BTU負荷、設計温度、空気抵抗、空気密度、湿度負荷、季節平均など、多くの要素を測定する必要があります。適切な栽培施設を設計するには、広く情報を集め、専門家と相談すべきです。誤った選択は、設備コスト、収量低下、品質のばらつきといった大きな損失につながります。最初から自分のニーズに合ったシステムを導入するために、少し余分に投資する価値は十分にあります。ミニマムな設備を設置するだけでも、何もしないよりも、はるかにましです。
換気は、これまで述べてきたすべての目的を達成する必要があります。換気システムを設計する際は、以下のすべての要素に基づいて考えてください:
- 新しい空気はどこから取り入れ、古い空気はどこへ排出するのか?
- CO₂を添加する場合は、室温が上がった時どう下げるか?
- 空調や暖房システムにはどの程度の能力が必要で、どう制御するか?
- ダクトをどう配置するか?
これらはすべてのグロワーにとって重要な課題です。こうした点をあらかじめ整理しておくことが、後々のトラブルを防ぎ、栽培作業をスムーズに進める唯一の方法です。これらを総合的に考え、実際の設備や運用に落とし込むことこそが、換気の方法と実践なのです。