基本的な原則Part1では水やりのルールを紹介しました。ここからは実際に、換気システムを設計する際のポイントについて説明します。まず押さえておくべきなのは、どのような目的で換気を設計するのか、システムにどんな環境要因が影響するのか、そしてそれらが時間とともにどう変化していくのかを理解することです。必要なポイントがはっきりしたら、換気システムは水平換気と垂直換気という二つのアプローチから設計・構築できます。c

水平換気

水平換気とは、特定のエリア内全体の空気を動かして混ぜることをいいます。この空気の流れでエリア内の温度差がなくなり、空気が素早く循環し、エリア全体の湿度も均一に保たれます。栽培環境は自然の影響を受けない密閉空間であるため、ライト、ファンモーター、外壁などの熱源の周囲では空気が温まりますが、「シンク」とよばれる冷えやすい場所や物体周辺では空気が冷えます。

空気が動かずに停滞すると、熱を帯びた空気は上昇し、エネルギーを失った空気はゆっくりと沈んでいきます。この過程で、同じ温度を持つ空気が層状に分かれ、これを「熱成層」と呼びます。こうした層を混ぜ合わせて栽培空エリア全体の温度を均一に保つには、水平方向の空気の動きが欠かせません。これにより、必要に応じてエリア全体を均一に冷却・加熱できるようになります。

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換気の方法と実践

微小気候(葉面のバリア)をとりのぞく

植物の葉の表面にはたくさんの小さな気孔があり、ここから水分が蒸散します。この蒸散によって、根から吸い上げた水が植物の上部まで運ばれ、植物体内で養分もいっしょに移動します。また、植物は気孔を通して酸素と二酸化炭素を取り込み・排出しています。しかし、空気の動きがほとんどないと、これらのガスが葉の表面付近にたまり、スムーズに出入りできなくなります。こうした状態は、 微小気候(葉面のバリア) と呼ばれ、植物の生長を妨げる原因になります。グロウルームの空気を水平方向にしっかり混ぜることで、この微小気候が取り除かれ、葉の気孔からのガス交換(水分・CO₂・酸素)が効率よく行えるようになり、植物は最適な速度で生長できるようになります。

必要条件

水平の空気流をつくるため定義はシンプルですが、実践するには知識が必要です。まず動かすべきなのは、植物がある栽培エリアの空気です。グロウルーム全体の空気を動かすのは無意味ではありませんが、天井付近の空気を動かしてしまうと、栽培エリアよりも温度が高いため植物が高温ストレスを受ける可能性があります。また、カビの胞子や害虫がたまりやすい床の空気を植物がある高さまで巻き上げるのは避けた方がいいでしょう。

空気の動かし方によっては、植物にストレスを与えてしまうこともあります。結局、この水平気流をつくる方法は大きく2つの方法しかありません。1つは、換気ファンで室内の空気の排出と交換時に発生する気流をつくる方法、もう1つは、小型ファンやサーキュレーターを設置する方法です。しかし高温時に作動させて低温時には止めてしまう換気扇だけでは、コンスタントに空気を動かせません。しかし、作物の生育期間を通して水平方向の空気の流れは1日24時間必要です。そのため換気扇だけではなく、別途サーキュレーターなど空気を循環させるファンが必要です。

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換気の方法と実践

空気の動きと風量のバランス

グロウルームの温度を下げるために1分間に何度も換気すると、使用電力が大きくなり、空気の流れが強すぎて植物に過度なストレスを与えたり、ダメージを与えてしまうことがあります。さらに、水平気流用のファンと、垂直または排気系の換気システムを併用している場合は、空気圧や風速が増幅されて想定以上に強まることがあるので注意しなければなりません。理想的な空気の循環速度は、生育エリアのすべての葉がそよぐ程度のやわらかな風です。

小さな栽培スペースでは、できれば2台のクリップファンなどを植物の高さに合わせて壁面に設置し、それぞれちがう方向を向けて風を送れば、グロウルーム内の空気をゆるやかにローテーションさせることができます。これは生育ゾーン全体にむらのない空気をいきわたらせるのに非常に効果的です。広い栽培エリアでは、サーキュレータータイプのファンが有効です。サーキュレーター・ファンは風圧が強い反面、風量(風が運ぶ空気のかたまり)が小さいという特徴があります。そのため、スポット的に空気循環をつくるには非常に効果的ですが、植物をダイレクトに強く揺らすほどの力はありません。通常は、ファンの風が植物のトップ(茎頂部)よりも少し上を通るように設置します。

植物のトップよりも少し上に、やわらかな渦状の風(vortex)を形成させると、葉の部分にちょうど良い微風が生まれます。渦状の風は葉を軽く揺らし、微小気候(葉面のバリア) をこわして、ガス交換を促進するうえで理想的です。そして、部屋全体の空気を上下方向に動かす垂直換気システムでは、このような繊細な“水平・局所的な渦”をつくることはできません。垂直換気は部屋全体の空気量を処理する必要があり、生育エリアだけをねらって微風を作り出す設計には向きません。

垂直換気

垂直換気とは、栽培スペースの空気を外へ排出し、フィルター浄化などをしてからふたたび戻す、または別の場所から新しい空気を取り入れる仕組みのことをいいます。床と天井の両方に給気口と排気口を備えた特別な設計でない限り、実際の空気の流れはほとんど水平なので、「垂直」という言葉が示すのは、同じ高さの空気を混ぜるのではなく、複数の高さの空気を入れ替えるという意味になります。植物を育てる空間では、さまざまな問題を避けるために、空気を定期的に入れ替える必要があります。

空気を入れ替えると室温や湿度が変化し、密閉空間で不足しがちな二酸化炭素などのガスも補われます。水平換気は部屋の空気をよく混ぜることで温度・湿度・ガス濃度を均一にしますが、混ぜるだけでは熱や湿気を取り除くことも、新しいガスを供給することもできません。空気を“交換する”ことが、これらを根本的に解決する唯一の方法になります。

閉鎖型システムと開放型システム

垂直換気システムには開放型と閉鎖型の2 種類があります。開放型は、グロウ・ルームの外部から新鮮な空気を取り込み、栽培エリアの空気と入れ替えます。
一方の閉鎖型は、空気はいっさいグロウ・ルームの外に出さずにその場で処理し、再び同じ空間に戻す方式です。
空気の処理――冷却・加熱、加湿・除湿、消耗したガスの補充など――はどちらの方式でも重要ですが、特に閉鎖型システムでは欠かせない要素となります。栽培施設の環境調整の必要性や、育てる作物の特性に応じて、開放型と閉鎖型のいずれを選ぶかが決まり、さらに空気交換による流れ方に合わせて、システムの具体的な設計が決まっていきます。

閉鎖型システム

閉鎖型システムは、病害虫や有害なオゾンガスの発生などにより大気汚染が起きた空気を取り込みたくない状況で使用されます。
室内の空気と外気が直接触れないように、空気の出入りは分けて管理されます。
栽培エリアの空気はいったん排出され、活性炭フィルターなどで浄化されたあと、再び栽培エリアに戻されます。

開放型システム

開放型システムでは、管理された別エリアの空気や屋外の空気など、グロウルーム外部のソースから新鮮な空気を取り込みます。取り込んだ空気は、そのまま温度・湿度・ガス濃度の調整をすることもあれば、栽培エリアへ送る前に冷却・加熱・加湿・除湿などをしてから供給することもあります。新鮮な空気は栽培エリア全体を通過しながら古い空気を押し出して排出します。十分な換気量があれば、グロウルーム内の温度や湿度をコントロールできます。ただし、古い空気の排出量は、グロウルーム内にある温度や湿度に影響するランプの放射熱や植物の蒸散量を考慮して決めなくてはなりません。

必要な換気量は、室内で発生する過剰な熱や湿気をどれだけ早く下げて、最適な栽培環境を維持できるかによって決まります。しかも、すぐに温度や湿度が変化して最適な環境へと改善できるスピードで換気をおこなわなくてはなりません。どの程度の換気量が必要になるかは、室内の発熱量や湿度の高さをもとに計算式によって求めることができます。

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換気の方法と実践
住宅の給気と排気は、垂直換気のわかりやすい例と言えます。

換気システムの設計

実際に換気システムの設計をするには、まず、その空間で どれだけの熱が発生し、どれだけ熱が逃げていくのかを把握する必要があります。一般的には、BTU(British Thermal Unit:英国熱量単位)で計算されます。必要となる BTU の量が分かれば、最悪な条件と、グロウルーム内の最適な温度や湿度の範囲との差をもとにして、温度や湿度を安定させられるシステムを構築することができます。

気温(室温)

たとえば、夏の期間にグロウライトを点灯した状態で室温が最大 49℃ まで上がり、植物がちゃんと育つ温度の上限が 32℃ だとすると、17℃ 分の温度差を解消できる換気システムが必要になります。
加湿についても同じように計算できます。湿度もおなじく必要な変化量を計算しますが、温度とは計算方法が変わります。

空気中のガス比率

開放型システムでは、室内のCo2とO2の比率は問題になりません。外気をそのまま取り入れるため、グロウルーム内のガス組成は常に屋外と同じになり、植物が健康に生長できる濃度が確保されるからです。
一方、密閉型システムは、そうはいきません。植物が光合成する間は、二酸化炭素を追加で注入する必要があります。密閉された空気中の CO₂ は、植物によって非常に速く吸収されるため、数時間以内には光合成が低下し、植物の代謝が落ちるほど不足してしまうためです。その一方で、植物に必要な酸素については問題になりません。植物がCO₂ の炭素を固定する過程(光合成)で大量の酸素が放出されるため、その濃度は通常、植物が必要とする量を十分にまかなえるレベルになります。

換気に必要な機器は?

どの機器が必要になるかは、システムに求められる機能によって決まります。
閉鎖型システムの場合、その環境でどこまで対応できるかによって、気化式冷風機で十分な場合もあれば、エアコンなどの空調システムが必要になることもあります。また、動かしたい空気量によって、使用するダクトの太さやファンのサイズが決まります。

開放型システムでは、外部から新鮮な空気を取り込み、それを栽培エリアへ送ります。もし送り込む空気を冷やしたり加湿したりしたければ、気化式冷風機がよいでしょう。(これは地域によっては「スワンプクーラー」とも呼ばれる蒸発冷却方式の一種で、日本では主に 気化式冷風機として知られています。閉鎖型システムでも使用できます。)

これらの換気システムを構成するポイントは、機器が正常に動作し、かつ、余計なコストがかからないように正確に計算することが大切です。ダクトが曲がっている部分や、使用するフィルターによる抵抗など、換気システムの効率を下げる要因を把握しておく必要もあります。また、栽培室内の空気の流れを良くし、室内の気圧バランスを適切に保つためには、排気側と給気側の両方にファンを設置することが重要である場合が多いです。

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換気の方法と実践

機器の制御

設計段階では、換気と空調機器を自動で作動させる制御装置も、ないがしろにできない非常に重要な要素です。グロワーが何カ月もの間、24 時間体制で温度計・湿度計・CO₂ モニターを監視し続けることができない限り、閉鎖型、開放型の両方では垂直換気システムの動作を自動的に管理する装置が必須になります。一方、水平換気は基本的に常時作動させるため、オン/オフのスイッチさえあれば特別な制御機器は必要ありません

どのシステムでも最低限必要になるのは、冷却装置を制御するためのサーモスタットです。
さらに、換気システムと連動して動く暖房装置がある場合は、暖房専用のサーモスタットも別途必要になります。
密閉度が高いグロウルームでは、湿度が一定以上になると換気してくれる湿度調節器(ヒューミディスタット)も非常に有効です。また、特に温度については、夜間と昼間で設定値をそれぞれ設定できるのが望ましい場合もあります。季節や場所によっては、温室環境では昼間は冷房、夜間は暖房が同じ日に必要になることもあり、そのような状況では自動制御の重要性がさらに増します。

閉鎖型システムでは、CO₂ といったガスを注入して室内の濃度を高めることがあるため、ガスモニターを設置することも非常に重要です。特に、ガスの制御に異常がでたときにアラームを出せるタイプがおすすめです。CO₂ の注入は作物にとっては大きなメリットがありますが、過剰に使えばコストがかかりすぎるうえ、生長効果も低下します。また、人が作業しているときに濃度が上がりすぎると、スタッフやグロワーの命に危険があります。
CO₂ コントローラーは、換気のタイミングで CO₂ が無駄に排気されないようにしたり、温度や湿度の制御サイクルに合わせて決まった時間帯に CO₂ を注入したりできるため、非常に有効です。

とにかくシンプルに 〜KISSの法則〜

すべての機器が連動してこそ、システムは本来の力を発揮します。そのため、できるだけ多くの制御をひとつ、あるいは2つのコントローラーにまとめて管理できるのが理想です。また、ここでも “KISS原則(とにかくシンプルに)” が当てはまります。小さなグロウルームほど、シンプルなシステムにすべき、ということです。制御がシンプルであるほど、誤作動や故障のリスクも減ります。温度、湿度、そしてガス(CO₂)注入は、基本的に設定値(セットポイント)で制御されます。グロワーが室温を22℃に設定するとします。換気システムは設定した温度より数℃上昇すると自動的に作動し、数℃下がるまで稼働します。これにより、システムはより効率的に動作します。複雑で緻密な制御は必要なく、1℃以下の温度変化でシステムがひんぱんにON/OFFをくり返せば十分です。このように “ゆとりを持たせた設定値” にすることで、システムはより効率的に動作します。逆に、1℃以下の範囲で細かくON/OFFをくり返すような細かすぎる制御は、逆に効率が悪くなります。

換気を最適に設定することは、グロワーにとって最も難しい要素のひとつですが、植物にとって最適な環境をつくるために欠かせない基本でもあります。収量にばかり執着して換気をないがしろにすべきではありません。むしろ、栽培スペース全体の設計において、換気は最も重要な要素のひとつです。適切に設計された換気システムこそが、きちんと機能し成功を生み出します。

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