二酸化炭素は光合成のプロセスに不可欠です。屋内で栽培されるほとんどの植物は、効率的に光合成を行い、炭水化物の形でエネルギーを生成するために、最低330ppmのCO2濃度を必要とします。この濃度があれば植物は正常に生長し発達できます。これより低い濃度になると、植物の生長や健康に深刻な問題が発生します。実際、自然環境の CO₂ 濃度から 25% 低下すると生長が50%以上抑制されることもよく起こります。そのため、栽培室では昼間の植物が光合成する時間帯を通して、CO₂ 濃度を少なくとも 330 ppm に回復できるように設計しなければなりません。通常は、自然換気(対流や煙突効果を利用するもの)か、ファンで換気(給気/排気ファンを使用するもの)を行えば、CO2濃度を十分に回復できます。
CO₂ 濃度や、換気のない部屋で CO₂ がどれくらいの速さで低下するかには、さまざまな要因が影響します。例えば、植物が占める面積、作物の密度、光の強さ、水平気流、そしてキャノピー(葉の透過度)への光の届き方などです。一般的に、屋内栽培室では CO₂ が数分で低下してしまうため、15 分ごとに空気を完全に入れ替えることが推奨されます。
また、昼間に栽培室内の CO₂ 濃度を自然界の約 330 ppm より高くすると、生長する速度や収量が 30% 以上向上することが確認されています。
しかし、こうした効果を得るためには、室温や光の強さなど、その他すべての栽培環境も最適であり、植物の代謝に適した状態である必要があります。栽培する植物の種類にもよりますが、収穫量の増加や栽培サイクルの短縮などのメリットにつながります。さらにCO₂ を注入した栽培環境では、作物の品質向上も期待できます。たとえば食用植物であれば、栄養価が高くなったり、香りが強くなったり、日持ちが良くなったりする場合があります。
換気できる栽培スペースでCO₂ を注入する場合の注意点
室内栽培でCO₂ 濃度を高めるには、いくつかの課題があります。グロウルーム内の室温を下げたり、除湿するために換気(空気の入れ替え)をすると、CO₂ を注入しても濃度があがりにくくなります。このような状況では、CO₂ 追加のために費やしたコストのほとんどが、文字通り外へ逃げてしまうことになります。換気をしているグロウルームで CO₂ を追加する場合には、次の点に注意してください。
- 常に換気している部屋で CO₂ を注入しても、ほとんど意味がありません。CO₂ 注入元に近い植物だけがよぶんにCO₂ を得られる程度で、CO₂ メーターが変化するほど濃度が上がることはほぼなく、注入したCO₂ のほぼすべてが外へ排出されてしまいます。そして、外気に排出されたCO₂ は温室効果ガスになり地球温暖化をすすめてしまいます。
- CO₂ は重い気体ですが、きちんと設計されたグロウルームでは床に溜まることはありません。理想的なグロウルームには水平気流(例:首振りファン)があり、重く沈澱しやすいCO₂ 分子でも、その空気の動きだけでグロウルームの天井近くまで十分に運ばれます。また、CO₂ ジェネレーターは、室内の排気ファンとは反対側に設置してガスを放出する方が効率的です。CO₂ コントローラー(センサー)は、この2つの装置の中間地点、一般的にはグロウルームの中央に設置するのが最適です。
植物に濃度の高いCO2をしっかりと吸収させるために、サーモスタット式の換気システムがきちんと機能し、少なくとも 10 分間は停止できることが必要になります。この換気が停止している時間帯であれば、CO₂ 濃度は 800 ppm 程度まですぐに上昇します。これ以上の濃度にするとコストが大きくなり過ぎます。また、CO₂ を注入して収量が30%アップした場合、その要因の約半分は 800 ppm 程度の濃度で実現すると言われています。
CO₂を注入するときは、「収穫逓減(ていげん)の法則」を覚えておいてください : CO₂濃度が一定以上になると、それ以上濃度を上げても、生長促進効果は小さくなります。最初に 400ppm 上げたときに効果が最も大きく、その後さらに 400ppmずつ濃度を上げても、植物への効果は徐々に小さくなっていきます。また、植物は1日のうちずっと高いCO₂濃度にさらされているわけではないため、実際の恩恵はさらに減少します。こうした理由から、換気のある栽培室ではCO₂注入のメリットが少なく、あまり採用されません。ただし、小型エアコンを併用すれば換気が止まる時間を長くできるため、CO₂濃度を高められる時間を多少は延ばすことができます。
密閉型の栽培環境
もっとも簡単にCO₂注入の効果を最大限に引き出す方法は、密閉型のグロウルームで栽培することです。この“密閉型”は、換気によって外気を入れず、エアコンと除湿機で温度と湿度を管理する栽培スペースのことです。一般的には、日中(ランプ点灯時間)は、新しい外気を取り入れません。この方法は、コストがかかり電力消費も大きくなりますが、高いCO₂濃度を維持でき、収量を大きく伸ばすことが可能になります。
密閉型グロウルームには、室温を完全にコントロールするためのエアコンだけでなく、冷房が止まって結露が出やすくなる夜間の湿度をコントロールする除湿機も必要です。日中は、エアコンがグロウルーム内の除湿機として機能します。
このような温度・湿度が管理された密閉環境では、注入したCO₂をほぼすべて室内に留められるため、CO₂供給のコストを抑えられ、植物を常に高濃度CO₂にさらすことができ、効果を最大限に引き出せます。それでも、温度、湿度、CO2濃度のコンスタントなチェックは絶対に必要です。
密閉されたグロウルーム内で、換気のないガスバーナー(プロパンガスまたは天然ガスCO2発生器)を使用するのは危険すぎます。これらの発生器は、天然ガスをほぼ完全燃焼させて、熱、CO2、水蒸気を発生させます。
青い炎(ほとんどのガスで発生しますが、バーナーメーカーのガイドラインを参照してください)は、完全燃焼を示しており、非常に安全です。炎が赤、オレンジ、黄色に変わる場合は不完全燃焼であり、一酸化炭素、エチレン、メタン、未燃焼ガスなどの不要な副産物が生成されます。
このような副産物はごく微量しか生成されないものの、密閉されたグロウルームでは、1日を通して植物にとって有害なレベルまで溜まってしまうこともあります。以下のような症状が見られたら、注意してください。例えば、葉がしおれる、生長がとまる、葉脈の間にクロロシスが発生する、葉に黄色〜オレンジ色の斑点が出る、根の先端が枯死する、葉のふちや葉先が焼ける、などです。
1~2時間ごとに少量の換気をすると、簡単に防ぐことができます。これだけでも不要なガス濃度を下げるのに十分であり、同時に室内の酸素も補充できます。ただし、バーナーとそこから発生する炎は定期的に監視する必要があります。また、換気中にCO₂が止まるように、電気リレーでCO₂ジェネレーターを自動停止できるようにします。さらに、首振りファンの風は、CO2ジェネレーターに直接当てないようにしてください。気流が燃焼を乱す可能性があるためです。
密閉型グロウルームでは、ガスの供給が正しく行われているかを毎日点検してください。もしCO₂の供給が止まってしまうと、あっというまに生長が止まってしまいます。また、CO₂モニター(センサー)は時間とともに校正がずれていく傾向があります。センサー部分に強い衝撃が加わると、計測値がさらに不正確になることがあります。これらのCO₂センサー(NDIR:非分散型赤外線式)は、校正が不十分だと実際より高いCO₂濃度を表示してしまうことがあります。さらに、葉面散布のミストやイオウ燻蒸の煙がセンサーを汚染すると、測定値が狂うだけでなく、センサー自体が壊れてしまうこともあります。
密閉型栽培のもう一つの見落とされがちな課題は、常に徹底した清潔さを維持する必要があるという点です。一度カビ病が発生すると、密閉環境では非常に早く広がってしまう可能性があります。害虫に関しても同じく、発生すると爆発的に増えることがあります。
栽培環境管理での注意点
葉うらの気孔(きこう)を開かせる=蒸散を最大限に活かせる環境づくりが重要です。そのために必要な条件は次の通りです:
- 温度:18℃以下にしない、30℃以上にしない(18℃〜30℃)
- 相対湿度(RH):低温時は40%前後、高温時は60%前後
- 水平気流の確保:植物が30秒に一度、葉が“ふわっと揺れる”程度の風が理想。ただし湿度40%以下では風量を少し弱める。
- キャノピーが密なほど強めの水平気流が必要:さらに、茎の下部(幹の基部)にも気流を当てると良い。
- 十分な光の強さをキープする:光が強いほど、植物は追加したCO₂をより多く使って光合成できる。
- 光源の放射熱に注意:ライトが近すぎると植物がストレスを受け、CO₂吸収が低下する。
- 培地の肥料濃度(EC値)を適正に保つ:高すぎると肥料焼け、低すぎると欠乏症の原因になる。
注入したCO₂の効果を確認するには??
CO₂を注入すると、作物は通常より生育が早くなり生長が促進されるはずです(=CO₂無注入の状態と比較して)。もし生長に変化が全く見られない場合は、気温、湿度などの環境要因のいずれかがバランスを崩しているはずです。その要因を特定して改善するために設備を見直してみてください。